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第16話 名前を書く欄

Author: 운디네J
last update publish date: 2026-10-19 23:05:04

街は、ムジンの記憶より明るかった。

バスの窓に看板と信号が重なった。人々は同じ方向を向いて立ち、信号が変わると一斉に動いた。

ムジンは紙に書かれた住所を見直した。

病院名の下に、イヒョンの名前があった。それさえ確かめればよいのに、紙を畳んでは開いた。

鞄からは、乾いた葉の匂いがした。

* * *

受付の職員が顔を上げた。

「どなたにご面会ですか」

ムジンは名前を告げた。

職員は画面を確かめ、面会の予約はあるかと訊いた。ムジンは研究員の連絡先を差し出した。

短い電話のやり取りがあった。

その間、後ろにいた人たちは鞄をよけて歩いた

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    家というより、歴史のある施設のように見えた。ムジンは車窓越しに高い塀と正門を見た。紋章を刻んだ鉄の門が開く。車が中へ進む間、手のひらのまめをこすっていた。隣でイヒョンが訊いた。「遠いでしょう?」ムジンは首を横に振った。遠いのは道ではなく、高いのは敷居だった。鞄を膝へ引き上げた。* * *用意された部屋は、本館の隣の別館にあった。ベッドと机、浴室のある静かな部屋だった。管理人は必要なものがあれば呼んでほしいと言い、呼び鈴を示した。ムジンは鳴らさなかった。鞄を置き、まず窓を開けた。庭の向こうに本館の明かりが見える。イヒョンがどこにいるのかは、わからなかった。ノックがした。イヒョンだった。「僕の部屋、あっちです」ムジンが訊く前に、窓の外を指さした。「明かりが三つついているところ」「一人で歩いてきていいんですか」「廊下ですから。崖じゃありません」ムジンは口を閉じた。イヒョンは部屋を見回し、椅子に座った。小屋にいたときのように袖を触り、今日の服は手に合っていると気づいたように、手を下ろした。ムジンはその短い動きを見逃さなかった。* * *夕食には、家族が何人か同席した。

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    イヒョンが先に一歩踏み出した。ムジンは椅子をよけて近づいた。足首を見ようと目を下げたせいで、差し出された手に気づかなかった。小さな手が、宙で止まった。「薬草のことで、来たんですか?」ムジンは鞄の紐をつかんだ。「はい」イヒョンはゆっくり手を下ろした。間違ってはいなかった。鞄には薬草があり、担当者にも会った。まだ説明することも残っていた。けれど、間違っていない言葉でも人をがっかりさせるのだと、ムジンは遅れて知った。「そうなんですね」イヒョンは笑顔を作り直した。「どうぞ」* * *病室には花が多かった。ムジンは鞄をどこに置けばいいかわからず、持ったまま立っていた。イヒョンが椅子を一つ空けた。「ここに」ドユンは医療スタッフと話してくると言って出ていった。扉が閉まると、二人は急に言葉を失った。イヒョンが先に口を開いた。「ご飯、食べましたか?」「まだ」「朝から?」ムジンは時計を見なかった。イヒョンは呼び出しボタンへ手を伸ばしかけ、止めた。代わりに電話で軽い食事を頼んだ。ムジンが大丈夫だと言っても、聞かなかった。「ここでは、僕が世話をします」

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    街は、ムジンの記憶より明るかった。バスの窓に看板と信号が重なった。人々は同じ方向を向いて立ち、信号が変わると一斉に動いた。ムジンは紙に書かれた住所を見直した。病院名の下に、イヒョンの名前があった。それさえ確かめればよいのに、紙を畳んでは開いた。鞄からは、乾いた葉の匂いがした。* * *受付の職員が顔を上げた。「どなたにご面会ですか」ムジンは名前を告げた。職員は画面を確かめ、面会の予約はあるかと訊いた。ムジンは研究員の連絡先を差し出した。短い電話のやり取りがあった。その間、後ろにいた人たちは鞄をよけて歩いた。枝で擦った手の甲と、古い靴がやけに目についた。山では何でもなかったものだった。「こちらにご記入ください」紙が差し出された。名前。連絡先。訪問の目的。ムジンはペンを持った。姓を書こうとして、手が止まった。この十年、村では名前の二文字だけで足りた。ゆっくりと、すべて書いた。職員はその字を見て一瞬顔を上げ、また書類に目を落とした。ムジンはもうペンを置いていた。「研究棟から担当者が参ります」すぐにはイヒョンに会えなかった。ムジンは、わかりましたと答えた。* * *研究員は彼

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    「自分で行くんですか?」ソリンは鞄とムジンを見比べた。ムジンから店に連絡すること自体、珍しかった。尾根で途切れそうになる電話をつなぎ止め、今日中に来てほしいと言われたときは、けがでもしたのかと思った。ところが、小屋の戸口に鞄があった。「薬草の説明が必要です」「記録は送ったでしょう」「記録だけではわからないこともあります」ソリンはそれ以上訊かなかった。ムジンは手紙を持っていた。読み返して畳んだ跡が、何重にもついている。ソリンは鞄を開けてみた。着替えが二組。薬草。古いノート。「どのくらいいるつもりですか」「わかりません」「なら、お金を先に入れてください」持ってきた封筒を食卓に置いた。前の取引で残っていた代金だった。今度は余分に入れなかった。ムジンが受け取らないことを知っていた。ムジンは封筒を鞄の内側にしまった。* * *ソリンは残った薬草を確かめた。ムジンの留守中は湿気に気を配り、取引の日には必要な分だけ運ぶことになった。小屋の鍵を渡されると、少し妙な気分になった。何年通っても、渡されたことのない鍵だった。喜んでいいのかわからなかった。「あの方、そんなに悪いんですか」ムジンはうなずいた。「それで、行くんですね?」

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